アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」を読んで

健康

第1章 人類はスマホなしで歴史を作ってきた

飛行機やインターネット、スマホなんかは特に、長い歴史の中でごく最近出てきたもので、人間はまだ対応できる状態にはないということです。

私たちが決断を下すときには感情が影響を与え、ネガティブな感情が最優先されるそうです。人類の歴史を考えると、脅威に即座に対応するためには当然のことです。現代社会でも、強いストレスや心配事があるとそれ以外考えられなくなり、最終的にはうつ症状が出たりするのはそのためです。人類の歴史を知ることで、自分の思考や感情、行動を客観的に分析し、問題や悩みを回避できたらずいぶん精神衛生が良くなるのではないでしょうか。

第2章 ストレス、恐怖、うつには役目がある

「闘争か逃走か」を他の食欲、睡眠欲、性欲などよりも優先する人間本来の本能により、ストレスは症状として鬱になるのを防いでくれ、るありがたい「警告」だということです。どんな兆候かというと、不眠、お腹の不調、感染症にかかりやすい、歯ぎしり、短期記憶の低下、苛立ちなどがあります。これらの症状が出ることに落胆したり、イライラする必要はありません。ストレスに強い人が生き残るというわけではないからです。心配や不安は生き残るためのスキルのひとつであるといえます。

第3章 スマホは私たちの最新のドラッグである

できるだけ長い時間人の注目を引いておくにはどうすればいい?人間の心理の弱いところを突けばいいんだ。ちょっとばかりドーパミンを注射してあげるんだよ。
           ーショーン・パーカー(フェイスブック社元CEO)

”私たちの4割は、1日中スマホがないよりは声が出なくなる方がましだと思っている。”、という衝撃の事実。みなさんはどうでしょうか?確かに、団結する、仲間を探す、訴えたいことがある…というときにSNSは大変便利です。もしくは、ただ承認欲求が欲しいという目的の人もいます。そこで衝撃の事実があります。

”フェイスブックやインスタグラムは、親指マークやハートマークがつくのを保留することがある。・・・刺激を少しずつ分散することで、デジタルなごほうびへの期待値を最大限にもできる。”

”SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していることや、どのくらいの頻度が効果的なのかを、ちゃんとわかっている。・・・このような企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っている。”

このような操作をされていることを、利用者の何割が知っているのでしょうか。依存状態に陥る前に、事実を知り、冷静にプラットフォームの利点のみを活用できるようになるといいですね。

あなたはどっち?
スマホ依存症になりやすいタイプ
怒りっぽく、攻撃的なほどの積極性に富み、活動的な性格の傾向がある
あまりスマホに依存しないタイプ
おっとりした性格で落ち着いた人生観を持つ人

ニューヨーク・タイムズ紙の記者のインタビューに、アップル社の創業者スティーブ・ジョブスは「iPadはそばに置くことすらしない」、さらに「スクリーンタイムを厳しく制限している」と、自分の子供のデバイス使用には慎重な姿勢を見せました。使用中以外の近くに置いたデバイスへの中毒性まで認識していたのかもしれません。

第4章 集中力こそ現代社会の貴重品

現代のモノに囲まれたせわしない生活の中で、日々多くの人はマルチタスクをやってのけています。それを加速させているのがスマホ。メールやSNS、ニュースのチェックに一日何時間費やし、何分おきにスマホを触っているでしょうか。

”脳には切り替え時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余(attention residue)と呼ぶ。・・・再び元の作業に100%集中できるまでは何分も時間がかかるという。”

マルチタスクが得意と感じている人々の中には、脳の切り替えがスマートにいかず、実際にはどれにも集中できていない、さらにはどのタスクも完成度や理解度が低いという人も多いのかもしれません。平行して複数の作業ができる脳の持ち主は「スーパーマルチタスカ―」と呼ばれ、人口の1~2%だそうです。

また、長期記憶を作るときにはまず、「何か」に集中し、「これは大事なことだ」と認識し、次に、「固定化」と呼ばれる眠っているときに行われるプロセスが必要だそうです。現代のスマホやテレビ、その他様々なマルチタスクを行う生活では、その「集中」を阻害し、長期記憶を作る能力がどれだけ脅かされているでしょうか。

脳は身体の中で最もエネルギーを必要とする器官で、成人で総消費エネルギーの2割、10代で約3割、新生児は5割を費やしているそうです。どうやら脳はそのエネルギーの節約をするようで、デジタルで検索するなど、その内容がまた後日閲覧可能であったりすると、記憶量が少なくなるようです。それは「グーグル効果」や「デジタル性健忘」と呼ばれます。「固定化」には、情報をその人の個人的体験と融合させる必要があるそうです。まさに今一人1パッド配られたGIGAスクール構想は、児童生徒に何をもたらすのでしょうか。パッドから学び、パッドを通して意見を言い、パッドで受けるオンライン授業。はたしてこれらが子供達に健全な発育をもたらすのでしょうか。大人たちは、未来ある子供たちに負う責任を胸に、何を与えるのか、何を与えないのかをしっかり考えて選ばないといけません。

第5章 スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響

スマホを頻繁に取り出して見る人ほどストレスを多く抱えていることが研究により分かっています。その3人に2人は「デジタルデトックス」が心の健康にいいだろうと思っていますが、実際にそれを実行していたのはわずか3割にも満たなかったそうです。

しかし、1日30分まで、1サービスにつき10分まで、SNS利用時間を制限した研究では、孤独感が減り、うつ症状が改善したそうです。

体内リズムは光を浴びた量や光の種類によって制御され、「松果体」から分泌されるメラトニンが、眠りにつく時間を体に知られてくれます。ブルーライト(パソコンやスマホのLEDディスプレイやLED照明に含まれる波長が380~500㎜の青色光)は、メラトニンの分泌を抑える特別な効果があるといいます。

今蛍光灯や白熱灯が次々とLEDライトに変わってきています。IKEAの照明コーナーを歩いてもLEDばかりで、テレビの安い液晶画面はLEDです。トンネルや道路の照明から、屋内の照明までほとんどが変わってしましました。帰宅して寛ぐリビングや寝室の照明などにLEDを使うと、睡眠にどれだけ影響を与えてしまうのかは簡単に想像できます。テレビのLED光は、以前の液晶と比べて眩しく感じます。さらに問題なのは、LEDを廃棄するときに大変な環境汚染となる点です。エネルギー不足を理由に普及させるには、あまりにも片側からの視点だけに重点を置き過ぎています。

また、電子書籍によるメラトニン分泌量の著しい減少にも触れています。ペーパーレスの弊害はあるということです。個人的感想を言うと、紙の書籍を読んでいる方が落ち着くし、想像力も多く働いているような気がします。

また、スクリーンと肥満には関係があるようです。ブルーライトがメラトニンとコルチゾールにより体を目覚めさせ、コルチゾールにより行動に出る態勢を整え、グレリンにより脂肪を蓄える、という仕組みです。

第6章 SNS-現代最強の「インフルエンサー」

比較は喜びを奪う。   ーセオドア・ルーズベルト

人間の脳が悪い噂が大好き、というのには歴史的に見て訳があります。人口の1~2割が他の人に殺されていた世界では、誰に気を付けた方がいいかといった情報は、食べ物がどこにあるかと同じくらい重要でした。とすると、あまりネガティブな嗜好はそれほど卑下することもなさそうですね。SNSなどでもフェイクニュースの方が多く拡散され、拡散速度も速かったようです。アルゴリズムもそれを認識し、タイムラインの一番上に表示され、それを加速させるようです。

また、みなが自分のことを話したいというのにも理由があります。他者と協力して何かをするためには、自分の振る舞いや発言がどう見られているかを知り、改善する必要があります。それで、自分の話をしているときに脳の複数箇所で活動が活発になるようです、

SNSを使うほどに孤独になるというデータもあります。SNSが幸福感に影響を与える仕組みはセロトニンであり、リーダー的存在であれば多く分泌され、支配的でないものの2倍分泌される場合もあります。つまり、SNSでどれだけ人々に支持されるか、フォローされるか、といったことが、SNS利用者の幸福度と孤独感を左右するというわけです。実際に、フォロワーが多い上に炎上したり、叩かれたりする人は、よく病んでいるのを見かけます。つまり、社会的地位は精神の健康のために重要であるということです。セロトニンが多いものがボスになるのではなく、ボスであることを理解してセロトニンが増えます。

また、「他人がどう感じているか」を理解するときに働くミラーニューロンは、スクリーンやモニターで何かを見るときは、実際に目の前で起きているときほどに活性化されることはなかったといいます。ステイホームですべてがオンラインになった今、人らしさはどんどん失われていくのかもしれません。

スマホやテクノロジーは、できるだけ人間を依存させるよう巧妙に開発されています。しかし、それに呑まれてしまうか、適度に利用するのかは、自分次第ということです。

不安は、脅威となり得るものに対して、事前にストレスシステムを作動することにより起きます(火災報知器の原則)。「火災報知機の原則」による「異なるものへの恐怖」は、知らない人や見た目の異なる人に会うと、気を付けるように教えてくれる自己防衛の機能です。見た目の大きく異なる人に最初緊張や警戒してしまうのは本能によるものだったのですね。

第7章 バカになっていく子供たち

衝動に歯止めをかけ、報酬を先延ばしすることができるのは前頭葉ですが、成熟するのは一番遅いそうです。スマホには報酬系を活性化させる作用があることから、若者のスマホ依存が強いのも理解ができます。ドーパミンシステムの活動は10年で1割減少していくといいます。若いときというのは興奮を感じやすく、衝動を抑えることが得意でない時期です。スマホやスクリーンの使用時間を制限すべき年代であるのに、アルコールのように厳重には扱われていません。

最後に成熟する前頭葉は、遺伝子よりも環境に影響を受け、長期の訓練が必要と考えられており、その訓練をデジタルライフにより脅かされると警鐘を鳴らす研究者もいます。もともと、他人の考えや感情、意図を理解するのが苦手な人や自閉症の人などはその影響が強く出るのではないかということです。

また、デジタルの普及により色々なものが即座に手に入るようになり、それに慣れてしまった子供たちは、報酬を我慢できなくなり、上達に時間のかかるようなことを辞めたり諦めてしまうことが増えているそうです。

ノートをとることにも意味があるといえます。それは、スマホを手にしてノートをあまりとらない子供よりも、スマホを持たないノートをたくさんとる子供の方が、たくさん記憶していたそうです。他にも、スクリーンの利用時間が1日2時間未満の8~11歳の子供たちの記憶力、集中力、言語能力において良い結果が出ています。同様の研究が、成績が上がったというものなど、数えきれないほどあります。これらの結果が当てはまるのは一部の成績上位者を除くかもしれませんが、1人1タブレットで、必ず机に置いて学習することがいいのかどうか、もう一度考える必要がありそうです。

15~24歳の睡眠障害の診断を受けた人の数が、2007年から5倍に増え、2011年(スマホが本格的に普及した年)にはオーバーヒートしたというのも気になるデータです。若者の平均睡眠時間も1時間短くなっています。

スクリーンがいい影響を与えるという研究は存在しますが、それはあくまでも使用時間が1時間程度であって、現在の若者の3~4時間には程遠いということです。

第8章 運動というスマートな対抗策

脳は体を動かすためにできている。そこを理解しなければ、多くの失敗を重ねることになるだろう。     -マイケル・ガザニガ

驚くことに、毎日2.5京バイトのデータが新しく生まれ、1分間に400時間分の動画が You-tube にアップされ、370万件のグーグル検索がされているといいます。

子供に行った研究で、1日たった6分の室内の運動で、集中力が増し、情報処理が速くなったそうです。私達の脳は1日中ほぼ体を動かしていたであろう縄文時代と変わっておらず、椅子にずっと座っている現代社会においても、運動を取り入れるだけで効果が出るということです。

ウォーキングやランニング、軽い運動でも効果はありますが、不安を軽減するという効果がランニングに特に強いようです。効果は運動後も24時間続き、一週間後にも効果が残っていたそうです。

ストレスの大部分が「闘争か逃走か」という危険に結びついていたわけで、体を鍛えてどちらでも即座に対応できるコンディションの人の方がパニックにならず、ストレスにも上手く対処できるということです。

まとめ

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンは、スマホが健康に悪影響なのではないかという仮定からのみの推論に陥らないように、常に冷静な視点から様々な可能性を考えながら筆を勧めています。この結果をもってスマホやスクリーンの長期使用が健康に全く影響がないなどとは言い切ることはできません。とりわけ若年齢であればあるほどメリットよりもデメリットが大きくなります。特にその使用方法や使用時間を自分で制御するのが難しい子供には、研究結果に基付きながら健康被害の出ないように指導・制限すべきです。

参考図書
「スマホ脳」 著者 アンデシュ・ハンセン 2020年11月20日発行

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